いじめゼロを目指して

“ウェルテル効果”の危険性

“自殺”とは、言うまでもなく自分で自分の命を断つこと。
生きたくても生きられない人がいることを考えれば、
決して褒められる行為ではないのですが、
奇妙なことに、私たち人間には、どこか、自殺を美化して捉えるところがあります。

 

例えば、カリスマ的な人気を誇るアーティストが自殺した場合、そのファンたちは、
アーティスト自身やその死を神格化して捉え、自らも命を断つことさえあります。
これは、“模倣自殺”と呼ばれることがありますが…。

 

有名人に限らず、自殺に関する報道が相次ぐと、
模倣自殺者が増えるという傾向があるようです。

 

確かに、「○○県の△△中学校で、男子生徒がいじめを苦に自殺」という報道があると、
それから数週間〜数カ月にわたって全国的にいじめ自殺の報道が相次ぎますよね。

 

このような現象は「ウェルテル効果」と呼ばれており、
日本に限ったことではないようです。

 

※ウェルテル効果とは?
ゲーテの『若きウェルテルの悩み』が刊行された当時、
主人公ウェルテルを真似て自殺する人が増えたことを受けて、
マスメディアの報道に触発されて自殺者が増える現象のことを
「ウェルテル効果」と呼ぶ

 

 

いじめ自殺に関しても、2006年に福岡県の中学2年生が自殺したという報道の直後、
連鎖的にいじめを苦にする自殺が増えたという経緯がありました。

 

「報道すれば、自殺が触発される。しかし、事実を報道しないわけにはいかない」
…報道関係者は、日々、このジレンマと戦わなければならない宿命にあります。

 

自殺報道に関するガイドライン

自殺を報道すれば、模倣自殺が増える。
そうは言っても、事実を事実として報道するのがマスメディアの任務です。
この葛藤に苦しめられている報道関係者も多いことでしょう。

 

そんな中、WHO(世界保健機構)が2000年に示したのが、
「自殺を予防する自殺辞令報道の在り方」という報道ガイドラインです。
このガイドラインを元に、WHOは、各国のメディアに対して具体的な勧告を行っています。
その内容は、次のようなものです。

 

・自殺を美化しないこと
・個別ケースを一般化しないこと
・相談を受けられる機関などの情報を提供すること

 

…特に、最後の項目は非常に大切です。
単にショッキングな見出しでいじめ自殺の深刻さを報道するだけなら、
なんの解決にもつながりませんよね。

 

しかし、
「いじめが発生したらどうすれば良いのか」
「自殺したくなったらどこに相談すれば良いのか」
…といった具体的な解決方法や、未来につながる形での情報提供ができれば、
これから自殺を企てるかもしれない子供たちの心に
「待った!」をかけることができます。

 

それこそ、報道の本来の役割であり、
報道にしかできない“救済のカタチ”なのではないでしょうか。

 

“犯罪”と“いじめ”の境界線の問題

いじめ報道については、自殺の誘発だけではなく、
ケース別の“報道の在り方”についても様々な議論がなされています。

 

例えば、いじめはいじめでも、“犯罪行為”とも捉えられるような行為の場合。
つまり、行為の内容が少年犯罪に該当するようなケースです。

 

一般的に、いじめが原因の自殺に関する報道は、
被害者の実名や学校名も報道されます。
しかし、少年犯罪の場合は、加害者の構成を鑑みて実名は伏せて報道します。

 

これに関して、しばしば、
「いじめ自殺の被害者について実名を報道することは問題なのではないか」
「なぜ加害者ばかりが保護されるんだ」
…といった議論が繰り広げられることがあります。

 

いじめを苦に自殺した被害者やその家族の気持ちを考えれば、
たとえ報道するにしても匿名にすべきなのではないか。
加害者をかばうような待遇は、いじめの深刻さを矮小してしまうのではないか。

 

…いじめ報道を巡っては社会にも様々な意見があるようです。

 

いずれにしても、メディアの報道が
単に自殺を煽るものになり下がってしまうことは忌々しきこと。

 

新聞の一読者、TVの一視聴者として、
「命の大切さを伝えるための報道であって欲しい」と、切に願います。

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